2010年5月18日火曜日

SWOT分析(1)SWOT分析が困った分析法なわけ







外資系広告代理店の社員採用審査を頼まれたことがある。
海外からの応募してきた履歴書と業歴書に目を通す1次審査なのだが、特に業歴書の方は、ありったけの業歴をあげて来るものだから、30代後半から40代のチーフクラスの人材だなと思った人が履歴書に照らすとまだ20代そこそこで驚いたこともあった。

彼らの最も共通の業歴はSWOT ANALYSISで、学校や企業で実践し身につけたと書いてあった。SWOT分析は、事業戦略を導き出す基本ツールだし、グループワークに適しているので結果として経験者が多くなるのだろう。

SWOT分析は自社の強みstrength、弱みweakness、外部環境における機会opportunity、脅威threatsの4フレームを照らし合わせ今後の事業方向性を得ていく。プロジェクトの起動のタイミングや内と外の環境を見直してみようというタイミングには有効なツールだ。

しかしSWOT分析は答えを見つけやすい科学的な分析法かというとそうでもない。
SWOTそれぞれに5項目あげられたとすると、単純に数えて機会・脅威と強みの掛け合わせ50、機会・脅威と弱みの組み合わせ50、計100通りの戦略方向性が考えられる。さらに、強みをどのように活かすか、弱みをどのように克服するかと広げていけば際限なく選択肢が増殖してしまう。SWOTを演算や組み合わせ処理のように扱うとどんどん複雑化してしまう構造をもっている。

課題の整理や共有の道具ではなく、成果を得るためのSWOTはけっこう難しい。
まず、SWOTの目的である「事業方向性についての仮説」をSWOTの4つとセットにして5つのフレームワークととらえる。
4つのフレームから仮説に落とす一方通行でなく「仮説」から見た折り返し、逆にSWOTの見落としや発見をする。
何度も5つのフレームを折り返す。そのうちに仮説は磨かれ、4つのフレームも洗練されてくる。
ちなみに、仮説立てには生活者トレンド、戦略論などSWOT枠外の経験や知識、直観力、さらには仮説をSWOTに戻して検証する自己批判力が問われる。

こうしてみると、SWOTは分析の道具というより発想の道具、入門者というより熟達者の道具なのだが、熟達者のほうはSWOTをあまりやりたがらない。クライアントもしくは上司から各フレームの細部にこだわられてもいやだし、熟達者は何より発想の道具を固定されることを嫌う。脳は同じ事を繰り返すと飽きてきて、創造の源泉である好奇心が薄まってしまうことを身をもって知っているからだろう。